“年代の欠落”を埋める
白亜紀末期に突然、まったく姿を消してしまった恐竜が地球上に“王として君臨”したのは、約1億6000万年から1億7000万年間だ。この極めて長い期間のうちに一連の大きな進化が起こった。そのうち最も重要なものが鳥類の誕生である。
鳥類の起源と進化をめぐっては多くの「推測」が科学界にあるが、有力な学説はおよそ3つある。学界の論争はずっと続いてはいるが、中でも、鳥類は「ある種の恐竜が直接進化したもの」という見方が次第に主流になりつつある。
鳥類の祖先としての始祖鳥は約1億5000万年前に生息していたが、岩石層から見つかった始祖鳥に最も近い爬虫類であるマニラプトル類恐竜は、最も古い化石でもわずか1億2500万年の歴史しかなく、せいぜい始祖鳥の「孫」の世代という程度だ。このため、古生物学者の中には、鳥類に最も似ている既知の恐竜はいずれもその出現が余りに遅く、身体の形態は生活習性も含めてすでに固定化されており、それ以上鳥類へと進化するのは不可能だと断定する学者もいる。一方、鳥類の恐竜起源説をとる学者たちの仮説は、マニラプトルにはもっと古い何らかの「親戚」がいて、それらこそ始祖鳥やその他のあらゆる鳥類の「祖先」だというものだ。そして、エピデクシプテリクス・フーは今から1億7600万年~1億4600万年前のもので、ちょうど始祖鳥の生息時代と重なっている。「このことは、まさに鳥類の起源が獣脚類恐竜にあることの証明でもある」と指摘する張福成氏は、それは鳥類の恐竜起源説の「年代の欠落」に重要な証拠を付け足すものだと言う
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動物の起源を判断する際には2つの立脚点がある。1つは年代測定、もう1つは解剖学的な面での骨格形態だ。「いま、この2つのいずれの点でも比較的確実な証明がなされている」と周忠和氏は言う。
その他の既知の恐竜と異なり、エピデクシプテリクス・フーの尾には4本の長いリボン状の羽があり、それらはすでに完全な形ではないものの、残っている部分だけで20センチ余ある。そしてこれが発見される前には、尾にリボン状の羽を持つのは一部の原始鳥類だけだった。たとえば、白亜紀(1億3700万年~6700万年前)のドイツの始祖鳥と形態の特徴が似ている孔子鳥(コンフウシウソルニス)や原羽鳥(プロトプテリクス)などだ。
エピデクシプテリクス・フーの腰帯(腸骨、恥骨、坐骨から成る)は、科学者らが早い時期に遼寧省の同一地区で発見した寧城樹息竜(エピデンドロサウルス・ニンチェンシス)に極めて近く、腸骨の先端が強く盛り上がり、恥骨はまっすぐで坐骨より短く、前方に向かって伸び、恥骨脚がない。これらはいずれも鳥類と酷似している。
尾椎が極度に退化しているのもエピデクシプテリクス・フーが鳥類に近いことのもう一つの際立った特徴だ。通常、恐竜の尾椎は多い場合、数十個に達するが、エピデクシプテリクス・フーはわずか16個だ。
だが、みなを困惑させているのは、エピデクシプテリクス・フーのその他の羽毛が、いずれも鳥類のように飛行できる構造になっていないことだ。このため、その前肢が後肢より長くて原始鳥類に似ているものの、翼がないため飛行能力は具えていなかったと言うべきだ。
尾に長い羽を持つエピデクシプテリクス・フーの性別は判定が難しいが、1億4000万年前のジュラ紀にはすでに雌雄の特徴を具えたものに分化していたのではないかと科学者たちは推測している。現代の鳥類は、情報交流や求愛の道具としての派手な尾羽を具えている。通常はオス鳥のみが華麗な羽毛もしくは長い尾羽を具えている。鳥類の多くは“一雄多雌” (“一雌多雄”もわずかに存在)の繁殖習性を持つため、競って派手な羽毛を活用し、より多くの異性を引きつけようとするのだ。エピデクシプテリクス・フーの羽毛の主な用途はほぼこのような習性と関連しているのではないかと専門家らは推論している。
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