社会的大変革
選挙の結果から見て、大多数のアメリカ人はアメリカの社会が大変革を必要とすることを認めている。10月初めの世論調査が示しているように、89%のアメリカ国民は国が誤った道を歩んでいると見ている。こうした深い危機感のもとで、アメリカ人の新しさと変化を求める決意は比較的大きなものである。2004年に、かつて堕胎、同性愛などのイデオロギーの議題のため共和党に鞍替えしたいくつかの保守的な州は、今回の総選挙でいずれもオバマ氏に乗り換え、利益が「原則」に打ち勝った。民衆の支持のもとで、民主党は今回の大統領選で国会の上下両院における優位をさらに拡大し、その国内における政治的権限も数十年来の最盛期に達した。このほか、海外のヨーロッパ、日本という同盟国の民衆のオバマ氏に対する印象もわりに良く、イラン、ロシア、朝鮮などの当面アメリカと摩擦状態にある諸国までも、オバマ氏に対しある程度の期待感を抱いている。したがって、執政の理念が明確で、民衆の支持率が高く、政府と国会の両院が全部民主党のコントロールのもとにあり、海外もかなりの期待を寄せており、これらすべてはいずれもオバマ氏が大統領に就任してから新しい政策を推し進める上でプラスとなる。
しかし、もし当面のアメリカの政治・経済の背景をさらに深く突っ込んで分析するなら、オバマ氏の直面している内外におけるチャレンジは極めて大きく、「新しいアメリカ」に向かう道は決して平坦なものではないことを見て取ることができる。アメリカの新政府にとって、前任のブッシュ政府が残すことになる歴史的遺産は別に非常にすばらしいものではない。来年、オバマ氏が就任する時、国外ではアフガニスタン戦争、イラク戦争の膠着状態、再び台頭するとともに御しにくいロシア、中東・南米・アフリカの反米主義の左派政権、長期間解決されていない朝鮮、イランの核問題、および苦しい立場に追い込まれた全世界の金融と貿易のシステムとそれに伴って生まれたアメリカの改革を求める声に直面することになる。アメリカの国内では、金融危機は実体経済の深刻な足手まといになり始め、失業率は10数年いらいの高いポイントにまで上昇し、社会的問題が日増しに際立ち、社会の底層の民衆の生活問題は次第に深刻化し、両党の政治的ひび割れも以前より際立つことになった。ほかでもなくブッシュ政府のこれらの問題がオバマ氏と民主党を権力の頂点に押し上げたとはいえ、しかし、具体的にこれらの問題の解決に着手すれば、恐らくいかなる政治家にとっても決して容易なことではないだろう。
このほか、私達は、アメリカの政治、経済が事実上いくつかの不利な大きな背景に直面し、これは誰が大統領になっても必ず引き受けなければならないものであることを更に留意すべきである。まずニューエコノミーの失敗である。前世紀90年代いらい、知識と情報経済を主体とするニューエコノミーがアメリカで大発展をとげ、全世界の資本は夢遊のごとくアメリカ市場にどっと進出し、アメリカの経済は一面繁栄の中にあるようであった。バブルの破滅に伴って、ニューエコノミーがもたらした外へ溢れ出る効果もなくなり、国際社会の世界経済に対する認知は基本点に回帰し、アメリカは恐らくもう一度国民全体が借金によって思う存分楽しむ特殊な待遇を享受することが難しくなるだろう。
その次は「平和のボーナス」の終結である。冷戦終結の初期、アメリカの政治的実力と道義的影響はすべてかつてない高みに達した。同盟を強固にするとともにそれを拡大し、効果的に国防支出を圧縮し、積極的にグローバル化を推進することを通じて、アメリカ経済は持続的な拡張を実現し、世界を独占することによってもたらされた「平和のボーナス」を享受し尽くした。このほか、「平和のボーナス」にはまた「戦勝のボーナス」も含まれ、アメリカは旧ソ連を壊滅に追い込み、冷戦に勝ち、世界で唯一の超大国になった。世界各国はアメリカに対し尊敬しながら恐れ、アメリカに比類のない政治的名声と「ソフトな権力」を享有させた。ところが、国際環境の悪化と新興諸国の強力な台頭により、この状態の維持は難しくなり、特にイラク戦争は更に極めて大きくアメリカのソフトな実力を損なうことになった。
またはアメリカの覇権の2重のコストの問題である。「9.11」事件以前、アメリカの覇権のコストは、グローバルな公共製品を提供し、国際市場の統一と国際秩序の安定を確保することにあったが、現在はアメリカはどうしても国土の安全を守る重いコストを負担することを余儀なくされている。アメリカは2度目の「9.11」の出現を防ぐため、どうしても海外での軍隊の駐留を拡大し、情報ネットを広げ、親米政権をもり立てなければならず、国内でも一部の公民に対する監視とコントロールを強化しなければならず、公民の自由はそれによってある程度において損害を受けた。私達は決してアメリカのこうした国内における自由が受けた損傷を軽視してはならない。アメリカが成功した肝心な点はきわめて強い新基軸を打ち出す能力にあったが、きわめて強い新基軸を打ち出す能力は自由主義の制度的按配から生まれたものである。したがって、長期的に見て、アメリカが国土の安全を守るために払った国内コストは非常に大きなものであり、一般の人たちの想像を超えるものかもしれない。
最後に、私達はまた、オバマ氏が全勝した事そのものの背後に隠れている要素は、その未来の施政に対し牽制となるかもしれないことを見て取らなければならない。まず党内の足並みを一致させることである。一党独占の局面は民主党の国会における自信をこのうえなく膨れあがらせ、ひいてはいくつかの政策において極端に走り、党内での政治的資格とキャリアが比較的浅いオバマ氏を牽制することもあり得る。民主党の中で、オバマ氏は実用的なリアリストに属すると見るべきで、氏が今後民主党内の比較的急進的な勢力との間に内部のあつれきが生じることもありうる。民衆の高い期待はオバマ氏にとって両刃の剣でもある。オバマ氏の成功は、ある程度において理想主義者と少数民族の彼に対する期待という助けを得た。しかし、オバマ氏は本質的には実用主義を信奉する政治家で、彼に対する理想主義者の期待は大きな程度において外れてしまうかもしれない。
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