歴史学者の歴史認識の違いを解決する面での責任

第2次世界大戦が終わった後、冷戦の局面の下で、現実的な目標を強調する冷戦思考が主流となり、人類社会の平和と発展の過程を妨げることになった。このような国際環境の中で、歴史認識の違いは必然的に国家関係と発展に影響を及ぼす重要な障害となった。しかし、歴史認識の違いを解決する面では積極的な努力もあり、地域協力の実現はこの努力のたまものである。典型的なのは、例えばヨーロッパ、特にドイツとポーランド、フランスとの間では共通の歴史認識を求める面で積極的な努力が払われた。この努力は今日のヨーロッパで形成されている共同体の状況にとって、疑いもなく重要な意義を持つものである。東アジア地域の諸国間の緊張した関係は、歴史認識の問題が解決されないこととかなり大きな関係がある。このため、この面での努力はきわめて重要である。

2002年以降、私は中日韓三国の学者と教師が共に未来に目を向ける歴史教科書を編纂する仕事にも参加した。あの本が出版された後、これまでにないほど社会に関心が持たれ、歓迎された。日、韓両国では何回も出版され、予約部数も日増しに増えている。中国では、発行後まもなく図書発行部数のトップとなり、一週間に連続3回も追加印刷したにもかかわらず、それでもニーズを満たすことができなかった。この状況に長期にわたって歴史学が粗末に扱われ、周縁化したと感じていた私達は深い感銘を覚えた。われわれは、歴史研究の成果が広範に民衆と対面し、民衆に受け入れられ、社会の差し迫って解決しなければならない問題を解決してこそ、はじめて歴史学の機能と歴史学者の価値を具現することができることを体得した。

東アジア三国の間に共通の歴史認識が存在するかどうか、共通の歴史認識を確立することができるかどうかの問題もかつてかなり激しい議論を引き起こした。われわれがここで言う共通の歴史認識は、簡単に言えば戦争の性質に対する判断、戦争の歴史過程における重要な出来事に対する判断について基本的に一致した認識を確立することである。

21世紀の国際社会は平和と発展を追求しており、国際紛争に対し、われわれは話し合いによって紛争を解決することを主張している。国家間の関係に影響を及ぼす歴史認識の問題を解決する道も同じである。われわれが日本扶桑社の『新しい歴史教科書』を批判したのは、その本が狭あいなナショナリズムの立場に立ってグローバル化の成り行きに抵抗し、日本だけが優れた国であることを吹聴しているからである。留意しなければならないのは、狭あいなナショナリズムは新しい時代において台頭した思潮の1つとして、日本でそれに呼応する人たちがいるばかりでなく、東アジアのいくつかの国々においても影響力がある。狭あいなナショナリズムは異なる国の民衆の間の歴史認識の問題によってもたらされた感情の悪化を深刻化させている。この問題を解決するカギは信頼感をさらに醸成し、猜疑心を解き、共通の歴史認識の確立を促進することである。この面で、各国政府、メディアと学界にはいずれも免れることのできない責任がある。

中国では、歴史認識に関してはずっと次のような言葉がある。つまり「歴史を戒めとし、未来に目を向ける」ということがそれである。「歴史を戒めとする」とは、とりもなおさず国家間の友好往来の伝統を受け継ぎ、侵略戦争を起こしたことによる深い教訓を汲み取らなければならないということである。「未来に目を向ける」とは、とりもなおさず歴史上の古い恨みつらみを晴らす段階のみにとどまらず、世々代々の友好のために未来に目を向け、将来を切り開かなければならないということである。歴史はすでに過去となり、われわれは歴史の研究と歴史に関する教育を各国間の関係の前への発展を推し進める原動力としなければならない。われわれは未来に目を向ける歴史認識を確立するために共に努力しようではないか！

（作者は中日歴史共同研究第1回会議中国側座長、中国社会科学院近代史研究所所長）

「北京週報日本語版」2007年4月20日